歯に強い痛みを感じた時、多くの人は「虫歯が神経までいったな」「歯髄炎かもしれない」と考えるでしょう。確かに、ズキズキとした自発痛や、温度による刺激痛は歯髄炎の典型的な症状です。しかし、歯の痛みの原因は一つではなく、歯髄炎と非常によく似た症状を示す他の疾患も存在します。自己判断で「歯髄炎だ」と決めつけず、正確な診断を受けることが、適切な治療への第一歩となります。歯髄炎と間違えやすい疾患の代表格が「知覚過敏」です。知覚過敏は、歯周病や間違ったブラッシングで歯茎が下がったり、歯がすり減ったりして、象牙質が露出することで起こります。冷たい水や風がしみるという点で歯髄炎と似ていますが、大きな違いは痛みの持続時間です。知覚過敏の痛みは、刺激が加わった時だけの一過性のもので、刺激がなくなればすぐに治まるのが特徴です。一方、歯髄炎、特に不可逆性歯髄炎では、痛みは数分以上も長く続きます。次に、歯の根の周りの組織が炎症を起こす「歯根膜炎」も、紛らわしい疾患です。特に、噛み合わせの力が強くかかりすぎることが原因の歯根膜炎は、噛んだ時にだけ強い痛みを感じます。歯髄炎でも噛むと響くような痛みが出ることがありますが、歯根膜炎の痛みは「噛んだ時」に限定されることが多いのが特徴です。また、すでに神経を抜いた歯でも起こりうるのが、この歯根膜炎です。さらに、意外な原因として「歯周病」が挙げられます。歯周病が進行し、歯茎に膿が溜まって急性化した場合(歯周膿瘍)、歯茎が大きく腫れて、歯髄炎のような拍動性の激しい痛みを引き起こすことがあります。この場合、痛みだけでなく、歯がぐらつく、歯茎から膿が出るといった症状を伴います。これら以外にも、上顎の奥歯の痛みが、実は副鼻腔炎(蓄膿症)が原因だったり、三叉神経痛などの神経系の病気が歯の痛みとして感じられたりする「非歯原性歯痛」というケースも稀に存在します。このように、歯の痛みの原因は多岐にわたります。正確な診断には、レントゲン撮影や様々な検査が不可欠です。痛みの種類や状況をできるだけ詳しく歯科医師に伝え、正しい診断に基づいた治療を受けるようにしましょう。