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口の中を噛んだ後、白い膜ができるのはなぜ?その正体とメカニズム
食事中や会話中に、うっかり頬の内側や唇、舌をガリッと噛んでしまった経験は、誰にでもあるでしょう。その瞬間的な痛みの後、数時間から翌日にかけて、噛んでしまった部分が白っぽくなっていることに気づき、「これは何だろう?」「悪いものではないか?」と不安になったことはありませんか。この白い膜の正体は、実は傷ついた粘膜が治癒していく過程で現れる、ごく自然な生理現象です。その主な成分は「フィブリン」と呼ばれる、タンパク質の一種です。私たちの体は、ケガをすると、その傷口を修復しようと働き始めます。口の中の粘膜を噛んで傷ができると、まず出血を止めるために、血液中の血小板が集まってきます。そして、その血小板から放出される因子が、血液を固める働きを持つフィブリノーゲンという物質を、網目状の線維である「フィブリン」へと変化させます。この白いフィブリンの網が、傷口を覆うことで、外部の刺激や細菌からデリケートな傷を守る、いわば「自然の絆創膏」のような役割を果たすのです。皮膚にできる「かさぶた」は、このフィブリンに赤血球などが混じって乾燥し、黒っぽく見えますが、常に唾液で潤っている口の中では、フィブリンが水分を含んで白くふやけた状態になるため、白い膜のように見えるのです。また、傷ついた粘膜の上皮細胞が、新陳代謝によって剥がれ落ち、白く見えることもあります。つまり、噛んだ跡が白くなるのは、体が正常に治癒プロセスを開始した証拠であり、基本的には心配する必要はありません。この白い膜は、傷が治るにつれて、数日から一週間程度で自然に剥がれ落ち、下から新しいきれいな粘膜が現れます。ただし、この白い膜を、気になって舌で触ったり、指で無理に剥がそうとしたりすると、治癒が遅れたり、細菌感染を引き起こしたりする原因となるため、そっとしておくことが何よりも大切です。