ドライソケットの症状は、激しい痛みだけではなく、多くの患者さんを悩ませる、もう一つの不快な症状が「強い口臭」です。自分でも気づくほどの、腐敗臭にも似た独特の嫌な臭いは、周囲の人に不快感を与えていないかと、精神的なストレスにもなります。なぜ、ドライソケットになると、このような口臭が発生するのでしょうか。その原因と対策について理解しておきましょう。ドライソケットで口臭が発生する主な原因は、抜歯窩(抜歯した穴)の中で起こっている「細菌の繁殖」と「組織の腐敗」です。通常、抜歯窩は、血餅(けっぺい)という血液のかさぶたによってフタをされ、外部から保護されています。しかし、ドライソケットでは、この血餅が失われているため、剥き出しになった骨の表面に、食べ物のカスや唾液が直接溜まり込んでしまいます。口腔内は、もともと多くの細菌が生息している場所です。抜歯窩に溜まった食べカスは、これらの細菌にとって、格好の栄養源となります。豊富な栄養と、唾液による適度な湿り気、そして体温という、細菌が繁殖するための絶好の条件が揃った結果、抜歯窩の中で細菌が爆発的に増殖します。そして、これらの細菌が、食べカスなどのタンパク質を分解する過程で、「揮発性硫黄化合物(VSC)」に代表される、腐った卵や玉ねぎのような臭いのガスを産生します。これが、ドライソケット特有の、ドブのような、あるいは、何かが腐ったような、強い口臭の正体です。さらに、剥き出しになった骨の表面や、周囲の歯肉が細菌に感染し、炎症を起こして化膿すると、膿の臭いも加わり、口臭はさらに悪化します。では、この不快な口臭には、どう対処すればよいのでしょうか。残念ながら、歯磨きや市販の洗口液で口をゆすぐだけでは、根本的な解決にはなりません。なぜなら、臭いの発生源は、歯の表面ではなく、手の届かない抜歯窩の奥深くにあるからです。むしろ、強い刺激のある洗口液を使ったり、無理に抜歯窩を洗浄しようとしたりすると、症状を悪化させる危険性さえあります。この口臭を根本から断つための唯一の方法は、ドライソケットそのものを治療することです。歯科医院で、抜歯窩の内部を専門的に洗浄してもらい、細菌の温床となっている腐敗物を取り除き、抗菌作用のある薬剤を填入してもらう。この処置によって、細菌の繁殖が抑えられ、臭いの原因が元から断たれることで、口臭も劇的に改善していきます。