何の前触れもなく襲ってくる、ズキンズキンと脈打つような激しい歯の痛み。熱いものや冷たいものがしみて、食事もままならない。それは、歯の内部で起きている深刻なトラブル、「歯髄炎(しずいえん)」の典型的な症状です。歯髄炎とは、歯の中心部にある「歯髄」という組織が炎症を起こした状態を指します。歯髄は、一般的に「歯の神経」と呼ばれている部分で、神経線維だけでなく、歯に栄養や水分を供給する血管も含まれています。このデリケートな組織が、硬いエナメル質や象牙質によって守られているおかげで、私たちの歯は健康を保つことができるのです。では、なぜこの重要な歯髄に炎症が起きてしまうのでしょうか。その最大の原因は、ほとんどの場合「虫歯」です。最初は歯の表面にできた小さな虫歯も、放置している間に徐々に深く進行していきます。そして、ついに虫歯菌が歯髄にまで到達すると、歯髄は細菌に感染し、体を守るための防御反応として強い炎症を引き起こします。これが歯髄炎の正体です。歯髄は硬い歯の壁に囲まれた狭い空間にあるため、炎症によって腫れて内圧が高まると、神経が強く圧迫され、激しい痛みを引き起こすのです。虫歯以外にも、歯を強くぶつけるなどの外傷によって歯に亀裂が入り、そこから細菌が侵入して歯髄炎になることもあります。また、重度の歯周病が進行し、歯の根の先端から細菌が逆流して感染するケースや、治療した詰め物の下で虫歯が再発する二次カリエスが原因となることも少なくありません。歯髄炎の痛みは、歯が発しているSOSサインです。このサインを無視して我慢し続けると、やがて歯髄は壊死し、感染は歯の根の外、顎の骨にまで広がってしまう可能性があります。耐え難い痛みを感じたら、自己判断で放置せず、一刻も早く歯科医院を受診することが、あなたの歯を守るために最も重要な行動です。
歯髄炎の痛みの正体と主な原因