私たちは日々、たくさんの患者さんのお口の中を拝見し、歯周病と向き合うお手伝いをしています。その中で、よく「どんな歯磨き粉がおすすめですか?」という質問を受けます。そんな時、私たち歯科衛生士が必ず最初にお伝えするのは、「最も大切なのは、歯磨き粉の種類よりも、あなたの歯磨きの仕方そのものです」という、ある意味で身も蓋もない事実です。どんなに高価で優れた成分の歯磨き粉を使っても、歯ブラシが歯周病の原因である歯垢にきちんと当たっていなければ、その効果はほとんど発揮されません。歯ブラシの毛先を歯と歯茎の境目に正確に当て、優しい力で小刻みに動かす。そして、歯間ブラシやフロスで歯と歯の間の汚れを取り除く。この基本ができていて初めて、歯磨き粉は意味を持つのです。では、歯磨き粉は不要かというと、決してそんなことはありません。私たちは、歯磨き粉を「日々のケアの質を高め、モチベーションを維持するための強力なサポーター」だと考えています。患者さんの症状に合わせて歯磨き粉をおすすめする際には、やはり有効成分を重視します。例えば、歯磨きのたびに出血するという方には、まず炎症を抑える「トラネキサム酸」が入ったものを。歯周ポケットが深く、口臭も気になるという方には、バイオフィルムへの浸透性が高い殺菌成分「IPMP」を配合した製品をおすすめすることが多いです。また、私たちプロが意外と重視するのが「味」や「使用感」です。歯周病のケアは長期戦です。毎日使うものだからこそ、辛すぎたり、味が苦手だったりすると、歯磨き自体が苦痛になり、長続きしません。患者さん自身が「これなら続けられそう」と感じる、心地よい使用感であることも、実は非常に大切な選択基準なのです。高価な歯科専売品でなければダメということもありません。市販品にも優れた製品はたくさんあります。大切なのは、自分の口の状態を正しく把握し、それに合った有効成分が配合されていて、かつ自分が毎日無理なく使い続けられるものを選ぶこと。もし迷ったら、ぜひかかりつけの歯科医院で相談してください。私たちは、あなたのお口に最適な一本を見つけるお手伝いをする、一番身近な専門家なのですから。