親知らずなどの抜歯後、多くの人は数日で痛みが和らぎ、回復に向かいます。しかし、中には、抜歯から数日経ってから、まるで脈を打つような、ズキズキとした耐え難い激痛に襲われることがあります。痛み止めも効かず、夜も眠れないほどのその痛み、もしかしたらそれは「ドライソケット」かもしれません。ドライソケットは、抜歯後の傷口(抜歯窩)が正常に治癒しないことで起こる、非常に辛い術後合併症の一つです。その痛みは、通常の抜歯後の痛みとは比較にならないほど強烈で、「骨が剥き出しになっているような痛み」「顎からこめかみ、耳の奥まで響くような痛み」と表現されます。一体、なぜこのような激痛が起こるのでしょうか。通常、歯を抜いた後の穴には、血液が溜まって「血餅(けっぺい)」と呼ばれる、かさぶたのようなものが作られます。この血餅は、非常に重要な役割を担っており、剥き出しになった骨の表面を外部の刺激から保護する「フタ」のような働きをします。また、傷口の治癒を促すための土台ともなります。しかし、何らかの原因で、この大切な血餅が剥がれてしまったり、うまく形成されなかったりすると、抜歯窩の骨(歯槽骨)が、唾液や食べカス、細菌などがひしめく口腔内に、無防備な状態で直接晒されてしまいます。これが、ドライソケットの状態です。骨は、皮膚や粘膜と違って、非常に敏感な知覚神経が通っています。この神経が、温かいものや冷たいもの、食べ物のカスといった物理的な刺激や、細菌による化学的な刺激を直接受けることで、耐え難いほどの激しい痛みが生じるのです。さらに、骨が直接細菌に感染することで、炎症が起こり(骨炎)、痛みがさらに増悪します。また、傷口からは、腐敗臭にも似た、強い口臭がすることもあります。ドライソケットの痛みは、我慢して自然に治るものではありません。むしろ、放置すればするほど、治癒が遅れ、痛みが長引くだけです。抜歯後、日に日に痛みが強くなる、という異常を感じたら、それはドライソケットのサインかもしれません。