親知らずを抜いたあの日から、私の生活は鏡の中にある一つの小さな赤い塊に支配されることになりました。歯科医院で「血餅を大切にしてください」と言われたものの、実際に自分の口の中を覗き込むと、そこには今にもポロッと落ちてしまいそうな、ブヨブヨした不安定な血の塊があり、それが取れそうで怖いという強迫観念に近い不安が押し寄せてきました。抜歯1日目は、水を飲むことさえも慎重になり、口をゆすぐ時も「絶対に動かさないで」と自分に言い聞かせながら、水をそっと吐き出すだけの作業に1分以上かけました。食事の時間はさらに苦痛で、お粥の粒一つがその赤い塊に触れるだけで、ドライソケットになって激痛に襲われるのではないかと想像し、生きた心地がしませんでした。2日目になると、血餅の表面に白い膜のようなものが張り始めましたが、それが食べかすなのか組織なのか判別がつかず、取れそうで怖いという気持ちはピークに達しました。寝ている間に無意識に舌で触ってしまわないか、あるいはクシャミをした衝撃で飛び出さないかと考え始めると、夜も深く眠れないほどでした。3日目には、少しだけ痛みが引いてきたものの、今度は穴が少し深くなったように見え、血餅が縮んで隙間から剥がれ落ちるのではないかという新しい不安が生まれました。ネットで検索すればするほど、ドライソケットの恐ろしさが書かれた体験談ばかりが目に入り、取れそうで怖いという感情をさらに増幅させていきました。しかし、5日目を過ぎたあたりから、あんなに不安定に見えた血餅が、少しずつ周囲の歯茎と一体化してピンク色に近づいていることに気づきました。あんなに取れそうで怖いと怯えていたのが嘘のように、傷口は着実に塞がろうとしていたのです。1週間後の検診で、先生から「綺麗に治っていますよ」と言われた時、ようやく肩の力が抜けました。振り返ってみれば、あの1週間は自分の体の再生力を信じることができず、ただひたすらに怯えていただけの時間だったのかもしれません。血餅が取れそうで怖いという不安は、それだけ自分が自分の体を大切にしようとしていた証でもありますが、過剰な心配はかえってストレスになり、治癒を遅らせることにもなりかねません。これから抜歯を経験する人には、血餅が見た目に反して意外と頑張ってそこに留まってくれること、そして触らないことさえ徹底すれば体は勝手に治してくれるということを伝えたいです。取れそうで怖いという不安に寄り添いながらも、1日ずつ変化していく傷口を静かに見守る勇気を持つことが、抜歯後の最も大切なセルフケアなのだと痛感した1週間でした。