歯が痛いと感じた時、多くの人はまず「虫歯」を疑うでしょう。しかし、歯の根元が痛む、噛んだ時にだけ痛いといった症状の場合、その原因は虫歯ではなく「噛み合わせ」にあるかもしれません。歯と歯がぶつかる力は、私たちが想像する以上に強力です。食事の際にはもちろん、無意識のうちに行っている歯ぎしりや食いしばりによって、特定の歯に過大な力がかかり続けることがあります。この過剰な力が、歯を支えるクッションの役割をしている歯根膜にダメージを与え、炎症を引き起こすのです。これが、細菌感染を伴わないタイプの歯根膜炎、「咬合性外傷(こうごうせいがいしょう)」です。咬合性外傷は、単に歯ぎしりの癖があるというだけでなく、様々な要因で起こります。例えば、新しく入れた被せ物や詰め物の高さがほんの少しだけ合っておらず、他の歯よりも先に当たってしまう場合。あるいは、歯周病によって歯が少し移動したり、歯が抜けまま放置したりしたことで、全体の噛み合わせのバランスが崩れてしまった場合などです。ストレス社会と言われる現代では、日中の緊張や夜間の睡眠中に、無意識に強く歯を食いしばっている人も増えています。これらの持続的な力は、じわじわと歯根膜を傷つけ、ある日突然、噛んだ時の痛みとして現れるのです。虫歯が原因の歯根膜炎との違いは、レントゲンを撮っても根の先に明らかな膿の袋が見られないことが多い点や、冷たいものや熱いものがしみるといった症状がない点です。しかし、この咬合性外傷を放置すると、歯根膜の炎症だけでなく、歯がすり減ったり、歯にひびが入ったり、歯周病を悪化させたりと、様々なトラブルを引き起こします。治療法としては、まず原因となっている過剰な力から歯を守ることが第一です。高すぎる被せ物があれば、その高さを調整して全体のバランスを整えます。歯ぎしりや食いしばりの癖がある場合は、夜間に装着するマウスピース(ナイトガード)を作成し、歯にかかる力を分散させます。もし、あなたが原因不明の歯の痛みに悩んでいるなら、一度、噛み合わせのチェックを受けてみてはいかがでしょうか。その痛み、虫歯のせいではないかもしれません。